年中温かい気候が魅せる青い海と空、古くは中国から戦後はアメリカと、様々なカルチャーをミックスしてきたそのチャンプルー文化、そして独自の進化を遂げてきた沖縄料理など様々な魅力をもつ沖縄は、ご存知のとおり観光産業に大きく依存している独自の経済となります。
平成28年度の観光客数は、876万9,200人と前年比10%増となり4年連続で過去最高を更新しており、東アジアを中心とした海外観光客はもちろん、国内からの旅行者数も増加しています。
国際通りなどを歩いていると東アジアからの海外観光客が目につきますが、内訳では国内観光客が664万人と約7割となっており、沖縄にとってまだまだ国内が重要な市場となっていることが伺え、継続的な成長が期待されています。
そういった背景を受け、沖縄では毎年「沖縄観光ブランド戦略推進事業」という事業を展開しており、県内の代理店に対して公募を出し沖縄PRを行っています(昨年のPRサイトはこちら)。
実は今回、弊社もこの共同提案のオファーを受け、提案の大枠部分の策定まで任せて頂いたのですが、なんとオファーを頂いた組合の申請が間に合わなかったとのことで応募ができなくなってしまいました…(笑)。
せっかくまとめた内容が誰の目にも触れられないのは悲しすぎますし、せっかくなのでこのブログにて弊社が考える沖縄観光戦略案をご紹介したいと思います。以下レポートの形となっておりますが、沖縄観光を考える方にとって、少しでもヒントとなれば幸いです。
1.沖縄観光ブランド戦略における基本的考え方
上記を考えるにあたって以下の資料を活用しましたので、こちら引用しながら展開を進めてまいります。
参考資料:
A.平成27年度 観光統計実態調査(平成28年9月23日公表)
http://www.pref.okinawa.jp/site/bunka-sports/kankoseisaku/kikaku/report/tourism_statistic_report/h27_tourism-statistic-report.html
B.平成28年度 第1部 沖縄観光の現状と課題 – 内閣府 沖縄総合事務局
http://www.ogb.go.jp/soumu/choki_kankoushinkou/H28_1bu.pdf
C.平成28年度 沖縄観光ブランド戦略推進事業報告書(ブランド戦略報告書)
http://www.pref.okinawa.jp/site/bunka-sports/kankoshinko/yuchi/be-okinawa/brand-jp/koubo/documents/h28jissekihoukoku_12.pdf
1-1.国内観光客が持つ沖縄への期待について
前年度におけるのBとCにおける調査によると人々は沖縄の「美しい海」「白い砂浜」「豊かな自然」に惹かれる傾向が高い。また、Aの調査においても沖縄旅行をするにあたっての期待度を項目別に見ると、「海の美しさ」への期待度が82.3%(21P)と最も高い数値となっている。
満足度の結果調査においても「海の美しさ」で“大変満足”と回答した比率が 68.0%と最も高い。次いで『スポーツ・レジャー』が 50.9%、『森や川の美しさ』が 50.3%となっており、このことからアプローチの内容としては海やビーチを中心とした自然訴求や体験の価値を打ち出していくべきと言える。
1-2.国内観光客が持つ沖縄旅行への懸念点について
Cの調査によると25.6%もの割合で沖縄旅行は「費用が高そう」という結果がでている。またその費用発生場所として中心となるのは飛行機代と宿泊代とも言える。如何に飛行機代、宿泊代をリーズナブルに抑えられるという旨を訴求できるかが重要。
また、来訪頻度の高い客層はLCC利用が多い傾向にあるという結果もあり、LCCや民泊など今の時代にあった旅行方法の紹介なども積極的に行なうべきと言える。
次に懸念点として高いのは12.4%の「既に行っているため目新しさがない」という結果となっており、修学旅行をはじめとした沖縄旅行経験者の多さが伺える。これまでの沖縄訴求の中心にあった「癒やし」だけではない、新たな沖縄なバリューを抽出し伝えていく必要がある。
1-3.沖縄に訪れている人について
Aの調査結果にある沖縄旅行を選んだ際の情報源を見ると、自分の意志外25.9%、家族や友人・知人等の紹介21.4%と周囲の行動によって左右されていることがわかる。1位は「以前来訪したことがある」の39.7%であり、リピーターも多いと言える。
そのことは同調査における沖縄のリピーター比率84.2%という数字からもわかり、リピーターが多くを占めているといえる。また、このことから沖縄観光実績のある方に対する訴求を強めることで、SNSなどの口コミで新たな沖縄ファンを掴むことになると言える。
以上の調査結果を参考にすることで、1.海やビーチの訴求、2.多様性のある観光コンテンツや価格帯の訴求、3.リピーターへの訴求という3点が導き出される。この軸を踏まえると、今後の観光ブランド戦略を推進していくにあたって以下3点の候補が考えられる。
2.沖縄観光ブランド戦略を推進していくための3つのポイント
2-1.離島への訴求
Aの調査による「旅行全体」の満足度は本島よりも離島で高い傾向にあり、特に「海の美しさ」の満足度が高く離島への誘導は期待度を最大化が見込める。
また、同調査によると来訪者の84.0%が「沖縄本島」を訪れていることからも、離島への訴求を中心に行なうことでこれまで訪れたことのない離島の魅力、つまり目新しさを訴求できると考える。
一方、離島へ足を運んでもらうための旅費の高さ、離島での宿泊施設の充実度、島内でのアクティビティ訴求などにおいて課題があると言える。
2-2.魅力的なマリンアクティビティの訴求
期待度と満足度共に高い数値にある「海の美しさ」「スポーツ・レジャー」を中心としたPRの方向性。ビーチを持つ宿泊施設などと共同で新たなアクティビティの開発なども検討でき、動画での魅せ方やコンセプトの設計次第でオンライン上での共感を誘うコンテンツを生み出すことができる可能性が高い。
一方懸念点としては、これまでの「海が美しい」というイメージと同軸のコンテンツとなり、多様な魅力訴求としては弱いものといえる。またマリンアクティビティ重視となると、リピーターの中でも若者を中心としたコンテンツになる可能性があり、アプローチできる母数を狭めてしまう可能性もある。
3-3.沖縄旅行のプロや移住者による沖縄案内
自治体や運営側からのセレクトではなく、訴求対象と同じ目線を持つ沖縄観光客の目を通した魅力発信の方向性。
沖縄に何度も訪れる観光客や話題のインスタグラマーなどをキャスティングして、リアルな人を媒介とした沖縄コンテンツとし、ガイドブックには乗らない穴場スポットを紹介。隠れ家的なビーチやローカルに根ざした店舗などの紹介を通して、沖縄の新たな魅力の掘り起こしを行なう。
一方で、28年度におけるブランドサイト内の「Where to go in okinawa」コンテンツとの重複をはじめ、既にオンライン上でも得られる情報となってしまう可能性もある。リピーター向けのローカル情報も出回っているため、逆に新規性がなくなる可能性がある。
考え方としての結論
上記3軸の考え方ではどちらも一長一短あるため、適度にミックスを行ないバランスをとった訴求内容でコンテンツを考えていくべき。
その満足度、本島ほど情報の出ていない目新しさ、海の美しさなど重要項目にて離島のポイントが高い点などから、コアコンセプトは離島の方向性とし、その中にマリンアクティビティや離島移住者などが教える離島の魅力を練り込んでいくことで、各方向性における課題を解消していく。
3.国内市場における沖縄観光誘客施策の現状と課題
沖縄へ旅行意向度85.7%と好意的であり、昨年度は876万人を超える観光客、また各月の観光客数は42ヶ月過去最高を連続更新と国内トップクラスの観光地でもある一方、以下の誘客施策の課題も垣間見え、今以上のポテンシャルを発揮できる状況も考えられる。
課題1:一方的な情報発信に徹している
各都市における沖縄イベント、メディア展開、航空会社/旅行会社連携プロモーションなどOCVB誘客事業部を中心に様々な取り組みを行っているが、どちらも一方的な発信のみとなっており、ダイレクトに観光客のフィードバックやコミュニケーションをインタラクティブに行なう「場」が存在しないと言える。
そのため伝えていきたい情報と、求められている情報にズレが出てしまい機会損失をしている可能性がある。
実施後アンケートでのリサーチが中心となっているため、よりコミュニケーションしやすい施策や場つくりを展開しながら、スピード感のある改善フィードバックが集まる仕組みを行っていく必要がある。
課題2:既に定着している画一的な沖縄イメージを中心としている
冒頭紹介のCの調査報告書内に「目新しさが無いイメージ」ともあるように、長年同様の切り口(例えば、”癒やし”など)に沿った施策となっていると言える。 ※前年度のbe okinawaサイトをみても、”自然な私に戻る”、”素直な自分になれる”というキャッチコピーやリラックスできる音などをコンテンツとしており、過去と同様のブランディングであると言える。
一定の効果を出せてきたかと思うが、さらなるファンやリピーターを呼び込むために、よりディープな側面を魅せるのも有効であると言える。
Be.okinawaブランドを活用しながらダイビング、感動体験プログラム、エコツーリズム、ウェルネスツーリズムなど、現在推しているコンテンツを積極展開していく一方、より幅を拡げていくためにナイトスポット、刺激的なアクティビティや食事、ローカルな店舗、ユニークな個人など、あらゆる側面からリアルな沖縄を紹介していくべき。
課題3:実際に沖縄に訪れている旅行者に対する明確なマーケティング施策がない
県外でのイベントやメディアを中心とした外の向けの情報発信ばかりで、沖縄滞在中の観光客という、今後リピーターになりうる目の前の人々とコミュニケーションがおろそかになっているといえる。
沖縄観光推進ロードマップ(平成29年度3月策定)における「既存需要の拡大及び確保」項目(10P)をみても新規需要に比べターゲット設定が曖昧なものになっており、施策として「ウェブサイト・SNS等を通じたきめ細かなプロモーション等」とあるがまだ具体的な取り組みが見て取れない。
すでに訪れている方に、さらに沖縄を好きになってもらう取り組みと合わせて、今後の改善に繋げていくための課題のヒアリングなど、現地での施策を徹底して行なっていくべき。現場にいる観光客こそ、次の誘客、口コミ、他の友人の招待に繋がる最も有効な誘客施策チャネルとも言える。
以上、これまでに述べた考え方と課題感を踏まえてこういう以下の施策提案します。
提案内容と実施方法
1.Airbnbと沖縄県が提携し、離島と体験の訴求を行なう
以下の事例のように各地と提携を進めているご存知Airbnb、住宅宿泊事業法も成立し民泊における法整備も整っている今だから沖縄県とAirbnbの連携は両者の市場開拓の後押しになると考える。
空き部屋シェア「Airbnb」が初の自治体連携–岩手県釜石市に旅行者を誘致
スウェーデンが“国全体”をAirbnbに登録 どこでも自由に宿泊可能に
沖縄各地にて様々な切り口による民泊体験やアクティビティを作り、Airbnbプラットフォームにて発信を行なうことで観光ガイドにはない多様な沖縄の魅力を発信できる。またAirbnbの戦略として宿泊だけではなく、「旅行体験」全般をカバーしようとしているところからも、沖縄の体験価値を訴求するチャネルとする上で有効(宿を貸さず、体験提供の活用)。Airbnbに掲載する沖縄の体験(アクティビティ)コンテンツはブランドサイトにも掲載を行ないシームレスな相互送客が行えるような仕組みを構築する。
一方、沖縄県内においての浸透度において課題があるといえ、サービス登録などのサポートや営業が必要であるといえる。また、今回の方向性として「離島」を中心としていくため、宿や人口が少ない離島内にてAirbnbを活用、普及させる人材の用意をどうするかを考えていくべき。
その他以下メリットがあると考える。
・これまでの旅とは全く違う体験ができる。
・民泊だけではなく、アクティビティを中心としたサービスになりつつある。
・感度の高い(影響力のある)ユーザーが利用している。
・国内訴求と同時に海外訴求にも繋がる。
・世界的影響力のあるプラットフォームと手を組むことで沖縄の先進的な姿勢を他地域に訴求できる。
※(6/23追記 KDDI子会社のホテル予約サイトLoco Partnersが民泊事業をはじめたが、沖縄セルラーとKDDIの関係性から、Loco Partnersとの連携の文脈の可能性も考えられる)
2.インスタグラムを活用した沖縄ファン参加型のブランドサイト

インスタグラムにおいて沖縄は一つの大きなカテゴリといえ、「#沖縄」だけで約400万もの投稿がある。これは東京618万、京都577万、大阪560万に次ぐ数字といえ、沖縄関連ハッシュタグも多く存在することや、その自然の鮮やかさから国内のインスタグラマーにとって魅力的な土地であることがわかる。
例えば以下のようなインスタグラムで投稿されている人気ハッシュタグごとに写真を抽出することで、沖縄の様々な魅力を可視化することができ、沖縄旅行者の目からみた沖縄の本質的な価値をサイト訪問者に届けることができる(これら写真は日々更新されていき、サイトへの再訪問を促せます)。
#沖縄旅行
#沖縄料理
#沖縄移住
#沖縄ウェディング
#沖縄の海
#沖縄そば
例えば、#沖縄サンセット、#タコライス、#シーサー、#ハイビスカスなど、指定のハッシュタグ投稿を行えばインセンティブがもらえるキャンペーンを開催するなどして、県が訴求したい沖縄の魅力をインスタグラム上に発信することができる。もちろん連携サイトにもその写真は掲載され、実際の旅行者が作り上げる動的なコンテンツを実現できる。
3.旅のコンシェルジュとなるボットとの繋がり構築
沖縄リピーターである友人や家族に誘われて、沖縄観光に訪れている人が多いのが前出の資料からもわかるとおり、 最も力を入れてマーケティングを行なうべきは、実際に沖縄に訪れている観光客と言える。まず現場にいる観光客に120%喜んでもらうことこそが、底上げに繋がることからも現場での体験を最大化するためのコンシェルジュボットの導入を推進すべきと考える。
例えばhandyという、世界1200万人以上が利用するホテル客室備え付けの持ち出し可能なスマートフォンがあるが、これによりホテル周辺施設への送客、口コミサイトとの連携、お客様サポート、災害時の安否確認などが行えるとのことで、handyを導入したホテルの平均では口コミが50%増加し、評価も向上しているという。
観光客にスマホを配るわけにはいかないが、これと同じ仕組みにより人々が普段使うメッセンジャーアプリを通して、沖縄コンシェルジュチャットボット活用してもらうことで沖縄の体験向上に役立てることができると考える(チャットボットについてはこちら)。
近くにあるおすすめの飲食店やアクティビティの紹介予約や観光地における文化的背景の紹介を通じて沖縄の理解を深めてもらうのを基本としつつ、さらにはボットを通じて同じ観光客とのソーシャルなコミュニケーションなど、人との出会いまでを創出できるキラーツールとなりえる。
さらに、最も重要な点は観光客とボットにより交わされる「会話データ」であるといえ、そのデータをもとに毎年の沖縄観光ブランドの戦略策定に役立てることが可能になる。
こちらの記事では、現在の沖縄におけるマーケティング調査は機能していないと指摘されているが、 ボットを通したリサーチにより、リアルな声を拾い上げることに繋がる。
さらなるメリットとしては、沖縄を離れた後も、現地で得たデータをもとに、お土産の紹介や再訪したくなる情報をプッシュ通知で配信することで、より高いリピート率を生み出すことができる。
テクノロジーの活用が中心であるが、以下の3つの実施により、国内市場における沖縄観光の底上げが期待できると考える。
1.離島の魅力と多様な体験を効果的に紹介できるAirbnbプラットフォームとの連携
2.観光客目線での沖縄の価値を魅せることができるインスタ連携ブランドサイト
3.現地での体験価値の最大化とマーケティングデータ取得が行えるボット
まとめ
いかがでしょうか。久しぶりに沖縄観光について考えてみたので、お蔵入りするのももったいなくブログにて公開してみました。すでに国内でもトップクラスの観光地である沖縄ですが、こうやってみるとまだまだ伸び代があるのではないでしょうか。
しかし、ここで紹介したのはあくまでも魅せ方であって、より重要なのは観光客の受け入れ先となる滞在先や現地での体験のクオリティ向上でしょう。言い換えると、沖縄に住む人々のマインドにあると実際に住んでいて感じます。
例えば以前、広島に出張に行った際、広島駅の中にはボランティアと思われる案内スタッフがたくさんいて、迷っている方に対して熱心にサポートをしていました。そこからは心からのホスピタリティを感じ、とてもポジティブな気分になったのを覚えています。
全く同じようにするべきとは言いませんが、その地に住む人々とのコミュニケーションは観光客の印象を大きく作用することは間違いないでしょう。自身も含め、沖縄の人は他の地域に比べて、地元愛がとても強いと感じます。その地元を愛する、誇りに想うウチナンチュの気持ちが、訪れる観光客をエネルギッシュにさせている要因の一つかもしれないとふと感じました。
もしかしたら、まず最初にマーケティングを行なうべき人は県外の人々ではなく、そこに住む人々に対する観光地「オキナワ」の魅力や価値の再提案かもしれませんね。
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