これまでアーリーアダプターと言われる新しいもの好きの人たちやビジネスを行っている人たちが中心となって活用していたITテクノロジーは、スマートフォンやソーシャルメディアが普及することで一般の人たちにも当たり前のものとなってきました。FacebookやInstagram、そしてLINEなどの日常的に使われるWEBサービスを見ても分かる通り、これらは高度な技術を擁するサービスにも関わらずその使い勝手を「スマホユーザーに最適化」することでこれまでのアーリーアダプター層だけの小さなマーケットだけではない、インターネットに詳しくない一般の人々というとても大きなマーケットに強く指示されています。(インドネシアの人など、Facebookを毎日使っているにも関わらず、自身は”インターネットは使っていない”、という認識だそうです。)
このようにインターネットは全世界で活用され、もはや一般的に使われるサービス(アプリ)はソーシャルメディアやメッセージサービスを中心に固定化され始めてきています。FacebookやInstagram、そしてSnapchatやWeChat(日本だとLINE)らがスマホの普及により爆発的に増えたインターネットユーザーを囲い、さらには毎日起動されやすいニュースやゲームアプリが彼らに普及することで、ネットワーク効果も働きスマホ市場に対する大きなトレンドは2015年で一段落したと言えるでしょう。
そしてこの2016年は、アプリやサービスの枠に収まらずにIT業界の大きな変革が目に見えてみえる年となります。各サービスレベルでのトレンドではなく、そのバックグラウンド(基礎技術)とも言える大きな仕組みが大きく前進する1年となるでしょう。その理由の一つとしてはこれまで構想、研究、実験段階を得てきた最新のテクノロジーたちが市場に投下される年となり、私達もその技術が作り出す世界に触れることでスマホやソーシャルメディアの次に来るであろう大きな未来を体験することが可能となります。
それでは具体的にどのようなテクノロジーが今年主流となり得るのでしょうか。今さら人には聞けない、知っておくべき新しいトレンドを6つご紹介します。
IoT(Internet of Things)
はるか昔はユビキタス・インターネットとも呼ばれ、毎年来る来ると言われ続けていたIoTも今年こそは一般の人々に対しても大きなイノベーションが起きうる年として認知されています。(これまでBtoBなどのビジネス領域では活用が進んでいたものの日々の生活でその恩恵を受けることは多くありませんでした。)
IoT(Internet of Things)とは、つまり「モノのインターネット」の略で、家電家具、住宅、道路、建築物、衣服、農工業機器などあらゆる物体にセンサーが付随しインターネットと繋がることで相互作用を行い、より私達の生活を便利にする概念を指します。
実際にこのIoTの活用はビジネス分野では進んでおり、例えば小売店に設置されているセンサーは人々の行動を測定し、お客さんがどの商品をみたり、手に取ったり、棚に戻したり、買ったりするかを把握していますし、欧米の配達業者UPSはアメリカ国内を走る自社の車両6万台の状況をリアルタイムで常時把握し、そのビッグデータを処理することでどの経路がもっとも早いか、車両の故障や劣化の兆候はないかをインターネットを通じて認識しています。情報を取得するセンサーはもちろん、その情報を相互接続するネットワークと、処理するビッグデータ技術、そしてこの後紹介するAIとの掛けあわせで大きな価値を発揮するIoTですが、まず私達がその恩恵を目に見えて感じられる代表的なものが自動車の自動運転になるのではないでしょうか?
自動車そのものがインターネットデバイスとなり、これにより「移動」という概念が代わります。Google、トヨタ、UBER、テスラ・モーターズなど、各社がしのぎを削って自動運転の開発に力を入れており私達が予想するよりも早く、自動運転という形でIoTのインパクトを感じることができるかもしれません。(自動運転カーをわずか1カ月で自作する人も現れています。)2016年冒頭のCES(世界最大の家電見本市)では「スポーツ体験のデジタル化」「ヘルスとウェルネスのあり方を変革」などのテーマでIntelが基調講演を行い、ドローンを使ったIoT技術の披露も行いました。自宅の家電などの機器の領域に留まらずウェアラブルデバイスの分野でもこのIoTが前提となり大きな発展を遂げることでしょう。
ビッグデータ、AIのバックグラウンド技術が整いつつある今、その集大成となるIoTテクノロジーが一般にも具体化する1年になることは間違いありません。
VR(バーチャルリアリティ:拡張現実)
VRとは簡単にいうと、コンピュータによって作り出された仮想空間をあたかも現実のように体験できる技術のことを指します。特殊な映像技術や音響効果を利用してバーチャル空間を体験できるというものですが、これは2014年にFacebookがVR企業のオキュラスを2050億円で買収したことで、一気に盛り上がりを見せた分野です。
没入感を味わえるその体験からゲーム市場にてもっぱら支持されている技術でしたが、Facebookが「オキュラスのVR技術を通信、メディア、エンターテイメント、教育などの分野を含む新しい垂直市場に広げる計画だ」と発信することでその技術がもたらしうる大きな市場が現実味を持つこととなりました。
これまで人々はインターネット上で自身の体験や考えをシェアする手段としてテキスト、写真、動画と時代と共によりリッチなフォーマットを選んできました。マークザッカーバーグはこれからはVRがその手段になり得るとして、Facebook社としてVRによるプラットフォームを構築していくといいます。例えると東京にいる友達が、今自分がいる沖縄での体験と同じ体験ができるようになる、ということです。Facebook上でのシェアを情報の領域だけではなく、体験の領域までに及ばそうとしています。
そのVRの流れをより強固なものにするように2016年にはマイクロソフトのホロレンズ、ソニーのPlayStation VRが発売予定で、そしてGoogleはなんとダンボールを使ったVR製品GOOGLE CARDBOARDを既に販売しています。(Googleが支援するマジック・リープも注目です。)そしてついに今年、満を持してオキュラスが一般発売となりました。手元に届くのは3月以降ですが多くの人びとがVR体験をすることで今年はその市場が一段と活性化することでしょう。
AI(アーティフィシャルインテリジェンス:人工知能)
こちらも大きなバズワードとなり定義もあいまいなことから、近年様々な企業が「AI」をウリにしたサービスを展開していますが、2016年はそのあっと驚くようなわかりやすいAI技術を感じられる製品が各大手企業からドロップされることでしょう。
そもそも近年AI盛り上がりを見せている背景として、AI業界のブレークスルーである「Deep Learning(ディープラーニング)」という解析手法が2012年に編み出されたのが発端としてあります。これはコンピューターが自らが様々な物事を「これが何であるか」を認識できるようになる技術であり、人が教えなくとも機会にデータをみせていくことで、コンピューター自身が物事を学習していくことが可能になります。
この手法を発見したトロント大学のヒントン教授率いる研究チームは即Googleに買収され、その技術は同社が2015年から提供をはじめたGooglePhotoというサービスで体験することができ2016年の今年はこのサービスを通してAIの真骨頂が垣間見れることでしょう。GooglePhotoはあらゆる写真や動画を容量無制限で”完全無料”でクラウドに保存できるサービスですが、このサービスが使われれば使われるほどGoogleがもつAIの精度が高まることとなります。
実際に使ってみて驚くのが犬には犬と、ラーメンにはラーメンと「その写真が何か」ということをそのサービスは認識しておあり、さらには場所や人など関連性のある写真を繋げてスライドショーにしたり、さらには同人物の写真を一つのフォルダに自動でまとめるなど、Googleがもつ人工知能の力を感じることができます。不安すら覚える驚くべき新機能をどんどん追加しているGooglePhotoですが、今年はGoogleNowやYouTubeの進化していくであろうレコメンド機能も合わせて2016年は一般の人がより”意識することなく”人口知能の恩恵を受けることになるでしょう。
パーソナルコンシェルジュとも呼べる人口知能「M」を開発しているFacebook(売上の1/3を人工知能の研究に投下しているといいます)、AmazonEchoという家庭用スピーカーの形をしたAmazonの音声アシスタント、Windows10に搭載されているCortana(コルタナ)、女子高生人工知能りんななど積極的展開をみせるマイクロソフト、AIを使った自動運転者を開発中のAppleなど、プラットフォーム各社がAIに対して大きな投資をしています。
やはりその中でも一歩先を行っているのはDeepMindをも参加にもつGoogleでしょう。GooglePhotoを皮切りにそのAIテクノロジーの結晶がどのような形で2016年に現れるのか楽しみでなりません。
ロボット
こちらもIoTやAIの流れや、カメラやセンサーデバイスなどの低価格化高性能化を踏まえて、これまでの産業用ロボットとは一変した形で一般にも普及し始めるでしょう。その形とはソフトバンクのPepperに代表されるようユーザーの感情を認識し共感をしてくれるパーソナル・ソーシャルロボットが今のところ濃厚です。
あのPepperは、発売を開始してから1分以内に1000台の注文が入るほど人気を商材となり、その期待を受けて他企業も来たる2016年にはソーシャルロボットを発売すると言われています。実際に電通やKDDIの支援をうけてJiboという可愛らしいロボットが米国では注目を浴び2016年は日本をはじめとしたアジアへ進出を行なう予定があったり、表情から感情を認識することができるフランス企業が開発するBuddyも今年から量産体制に入るなど、子供やお年寄りも簡単に使えコミュニケーションができるロボットが本格的に各家庭に入り込むようになるでしょう。
細かなタスクを頼めるアシスタントとしての一面をもちつつも、その本質はコミュニケーションや承認欲求の充足ともいえるソーシャル・ロボット。一人暮らしや共働き、そしてお年寄りの多い日本こそ最も求められる市場かもしれません。
FinTech(フィンテック)
2015年、日米問わず大きな資金調達やエクジットが相次ぎ、今大きく注目されているトレンドがフィンテック、つまり金融関連に関する課題をテクノロジーを使って解決していくトレンドです。「Finance(金融)」と「Technology(IT技術)」を掛けあわせた造語ですね。送金やATMを使う度にとれられる手数料、そして銀行での面倒な手続きや書類の用意、そして何重にも及ぶクレジットカード関連会社からくる無駄な手数料など、データのやりとりはこんなにも簡単にできるのにお金に関してはまだまだ不便なことが多い状況に風穴を開け始めているのが、フィンテックを代表する各企業です。
友人間の送金を楽にするサービスや、ECや店舗での支払い決済を行う際に今までの高い手数料を払う必要が無く、さらには翌日には売上金が振り込まれる決済サービス、そして各種支出をスマホで一元管理できるスマホ家計簿サービスや、「お金を借りたい人」と「お金を投資したい人」を結びつけるソーシャルレンディングというトレンドもフィンテックと言われます。
中でもPOSレジを導入することなく実店舗がクレカ決済を導入できるサービスSquareの上場や、2015年に45億円と日本では大型規模となる資金調達を実施したfreeeなどがフィンテックの勢いを加速させています。日本ではベンチャーよりも、むしろ既存の大手金融機関がフィンテックの未来を感じています。
参考:
みずほ銀行とマネーフォワードのフィンテック提携
三井住友、フィンテック専門部署 金融・IT融合
三菱UFJ:フィンテック研究の専門部署新設-海外銀行と競争へ (1)
セキュリティ面や金融機関との交渉など、参入障壁が高い分野ではありますが今年は「オンラインでのお金のやりとり」の在り方が大きく見直される年となるでしょう。
シェアリングエコノミー
2015年もIT業界の話題の中心あったUberやAirbnbに代表されるC2Cとも言われるシェアサービス、そしてその仕組みが生み出すエコシステムがよりパワーを持つ1年となるでしょう。つまり誰もがスマホを持ちインターネットに常時接続をしている今、世界中の交通市場ではUberが、宿泊市場ではAirBnBがユーザー同士のマッチングを活性化させたように、今後急速的にあらゆる市場にて個人間同士のニーズを解決するためのマッチングがスマホ上で進むこととなり得るでしょう。
日本でその最たる例は中古市場のマッチングをしているメルカリや、労働市場でのクラウドワークスといえます。(モノのシェア、人のシェアといえるでしょう)様々な情報を得ることができ趣味嗜好が多様化している今、ニッチな分野においてもこれまでに比べるととても簡単にマッチングを行なうことができます。海外ではハウスクリーニング、洗濯、お買い物、料理など様々なニッチ分野での人々のマッチングが進んでいます。UberやAirbnbのようにオンラインだけでは完結せずにリアルな接点をも持てることがそのマッチング価値を最大限に発揮できる仕組みと言えるでしょう。
シェアする対象として「乗り物」、「スペース」、「モノ」、「ヒト」、「カネ」と大きく5つに大別できますが、2016年も続くインバウンド観光ニーズやUberやAirbnbの大きな成功事例もあり、乗り物と宿泊施設のシェアは法律関連の問題もありますがまだまだ日本で大きく伸びると期待できます。5つのジャンルにしばられず新たな市場にてシェアリングエコノミーを形成できる企業が現れるか、またユニコーン企業を代表する2社に日本企業はどれだけ近づけるか、シェアリングエコノミー協会なるものも発足した今、2016年も引き続きこの分野が楽しみです。
まとめ
以上、2016年には様々なサービスが登場し、より具体的な未来をみることができるであろう6つのITトレンドをご紹介しました。最後のシェアリングエコノミー以外は技術力、資本力、時間を要する分野でありスタートアップにおける参入は厳しい分野であるのも面白い点です。悲しいかな、テクノロジー業界における今後のプラットフォームや大きなトレンドは、既に圧倒的な人材(技術力)と資本をもっている勝ち企業からしか現れないということなのでしょうか。上記の紹介にもある通りGoogel、Amazon、Facebook、AppleのGAFAよばれるビッグ4、そしてMicrosoftなどの超大手企業が各分野で、ベンチャーでは到底太刀打ちできないパワーでしのぎを削っています。
TOPに君臨したものが全てを牛耳ることができるのがインターネットの世界、プラットフォームとして確固たる地位である彼らが次なるテクノロジーの未来を作っていくのはほぼ間違いありません。
スタートアップやベンチャーができることはその次なるプラットフォームを理解した上でその中でどのようなビジョンを打ち出し戦略的に戦っていくのか、そして資金を作り出した上でプラットフォームの中のプラットフォームとして成長するのか(LINEが自社でやろうとしている戦略のように、と言いつつもLINEもAppleやAndoridプラットフォーム内におけるいちプラットフォームですね..笑)、はたまた全く別で、もしくは掛け合わすことで自分たちのプラットフォームをどう構築していくのかの見極めとなるでしょう。例えばソラコムという日本の会社はAmazonのプラットフォームを活用しながらも、ソラコム自身がIoTのプラットフォームとしてなり得る存在として注目を浴びています。
今回紹介した大きなトレンドが現実味をますに連れて、それらの分野に参入することはどんどん難しくなっていきます。そうなるとこれから各プラットフォームのAPIなどを活用しながら、そこでどううまく立ち回るかが論点になってくるでしょう。いいかわるいかは別としてそれが現実、今の欧米メディアの在り方を見てもその流れを強く感じます。(続きはまた次回..)