「モノのインターネット」と訳されるIoT、家電、車、住宅、公共施設などあらゆるものがインターネットに繋がる技術ですが、そのIoT開発のプラットフォームとして業界から多くの注目を集めるソラコム(SORACOM)というサービスをご存知でしょうか?
技術者の間で大変話題になっているサービスですが、その説明には難しい技術用語が多くてその本質的な魅力をまだ理解していない方も多いかと思います。この記事では技術者ではない筆者が簡単な用語を使ってその魅力をご紹介します。
ソラコムとはAmazonが提供するクラウドサービス、AWS(アマゾンウェブサービス)に努めていた玉川憲氏が2015年に立ち上げたスタートアップであり、その思想にはAWSがもつクラウドコンピューティングのメリット、導入の簡易性、価格、セキュリティ、拡張性、連携の利便性などが練りこまれています。
WEBサービスを立ち上げる際、最小限のコストでスピーディーにサーバーを構築できる手段として多くの利用者に選ばれているのがAWS等のクラウドサービスですが、ソラコムは今後、ハードウェア(モノ)と通信する必要のあるIoTサービスを立ち上げる際、最も選ばれるであろうサービスとして認知されています。
なぜ立ち上がり間もないソラコムがIoTサービスが注目されるのか?なぜAWS同様のメリットをハードウェアとの通信にも適用することができるのか?ソラコムのサービスのご紹介をしていきながらその理由をみていきましょう。
ソラコム(SORACOM)とは?
ソラコムは本質的には「MVNO」なのです。と言ってもわからない方もいるかと思いますので、「MVNO」を簡単にご説明しますと、「MVNO」とは「仮想移動体通信事業者」の略でドコモ、au、ソフトバンク以外の携帯電話サービス会社のことを指します。例えばY!mobile、楽天モバイル、DMM mobileなどがそれにあたり、それらはNTTから割り当てられたLTEと3G回線を使って通信サービスを提供しています。
このMVNO事業者はスマホ端末を売っているわけではなく、電話やネット通信をするためのSIMカードを販売しており、大手3キャリアよりも安い通信料をメリットとしてビジネスを展開しています。(もちろん端末も販売していますが、通信量で設けるビジネスモデルとなっており、SIMフリーの端末であればSIMカードを買うだけでMVNOキャリアへの乗り換えができます。)
ソラコムもそのMVNO事業者なのですが、ソラコムが提供するSIMカードは、スマホ用ではなく各IoTデバイスに最適化されたSIMと料金体系であるというのがポイントです。スマホ用のSIMカードだとミニマムなプランとして「1GBまで3,000円」というような料金体系が多くありますが、それはスマホ利用に最適化されたものであり、一つのIoTデバイスで1GBの通信をすることなどありえません。
ソラコムがAmazonを通じて販売しているSIMカードは1日1枚10円、データ通信量は1MBあたり0.2円からの従量課金となっており、かつ複数のSIMの合計のデータ通信量で利用料金を計算しますので、量産、そして都度利用が基本となってくるIoTデバイスに最適化された価格体系となっているのです。(※ダウンロードよりもアップロード、日中よりも深夜時間帯の通信料金が安価に設定されています)
つまり、ソラコムとはIoTデバイスに最適化された通信ソリューションを提供するサービスという理解をしておけばよいでしょう。しかし、もちろんこの通信における価格面だけがソラコムの価値ではありません。この概要を踏まえた上で以下にソラコムが提供する各機能をご紹介していきます。
1.SORACOM Air
ソラコムを導入するにあたって基本となるのがSORACOM Airですが、これは先にもご説明したソラコムのSIMカード”Air SIM”のことを指します。
1枚でも、1000枚以上でも、すぐに調達することがでるこの”Air SIM”、他のMVNOとは違うそのメリットをみていきましょう。
メリット1:IoTデバイスをとても簡単にネット接続できる
「モノのインターネット」、その名の通りモノがインターネットに繋がってこそのIoTですが、これまで考えられていたネットに繋げる手段はとても面倒なものでした。
有線LAN(ケーブル)はいわずもがな、Wi-Fiは接続するにしても各デバイスごとにIDやパスワードを設定する必要があり、ルーターの設置も必要です。Bluetooth接続もペアリング作業なども手間ですし、電波の到達距離が短いなどの課題がありました。
これら従来の方法ではモノをネットに効率的に繋ぐのはあまり現実的ではないことがおわかり頂けるでしょう。しかし私達のスマホはSIMカードを通じていつでもネットに繋がります。そのモバイルデータ通信をIoTに活かしたのが”SORACOM Air”です。
メリット2:多数のSIMをとても簡単に一括操作できる
ソラコムではブラウザから管理画面にアクセスすることができます。その管理画面をとおして、AirSIMの通信の休止や再開、通信速度の変更、監視を行うことができます。例えば特定の地域に設置している、多数のデバイスへの通信を早めるなどのフレキシブルな設定が可能です。
さらにAPIでの管理にも対応しており、データ通信を行う夜間は通信速度を上げて、データ通信を行わない昼間はを休止させておくといった制御を自動で行ったり、Air SIMが組み込まれた各IoTデバイスの利用詳細を自動で取得するなどの管理効率をアップすることができます。
2.SORACOM Beam
ネット接続の簡易化などSORACOM Airがもつメリットをご紹介しましたが、もう一つ重要な点としてIoTデバイスからネットを介して得られる情報を取得する手段が挙げられます。
モノからデータを得て、なんらかの指示を出さないとIoTサービスとしての価値を成すはずがありませんが、自社サーバーとIoTデバイスの両間のデータのやりとりにおける機能がSORACOM Beamです。
メリット1:データ通信における安全なセキュリティ体制
企業としてビジネスを展開する上で避けて通れないのが「セキュリティ」の担保です。データを送受信する際には暗号化などの処理が必要になってきますが、小さなIoTデバイスではそれらのセキュリティ面まで考慮することが難しい場合が往々にしてあります。
IoT時代では、現実世界のあらゆる情報を取得することができる一方、そのセキュリティにおける課題も重要となってきます。「モノ」側で受けたデータが改ざんされたり、第三者に不正にわたるようであればIoTに発展の余地はないでしょう。例えば「鍵」や「照明」のIoTデバイスであれば何時に帰宅するのかという情報、「カメラ」であればその映像、「車」であればそのその持ち主の保険などの個人情報の不正取得だったり、誤作動をおこさせる可能性もあります。
IoTがもつそのようなセキュリティ課題を解決するのがSORACOM Beamであり、ソラコムがもつ一番の価値とも言えるでしょう。IoTデバイスからのデータはまずNTTがもつ安全な3G/LTE閉域網を通じてソラコムのサーバーまで送信されます。
その後、ソラコムのサーバー内で暗号化を行った上で、利用者のサーバーまでデータを送信することができるのがこのSORACOM Beamです。
さらに利用者のサーバーとソラコムサーバーの間でセキュリティ通信網を持つことになるので、デバイスからのデータの送信だけじゃなく、サーバーからデバイスへの受け渡しも可能となります。(サーバーが乗っ取られたとしても安心の認証機能も設けています。)
このように、小さなIoTデバイス内で暗号化を行なわずとも、ソラコムを利用することでセキュリティ万全な状態で自社サーバーとの通信を行なうことができるのです。
メリット2:各IoTデバイスと自社サーバーの接続先を簡単に切り替えできる
多数のIoTデバイスからのデータをBeamを通じて受けることで、それぞれのデータをどのサーバーに送信するか簡単に割り当てることができます。
IoTデバイスにもグループ設定することができるので、例えば東北地方に設置しているIoTデバイス郡Aグループは関東サーバーに、九州地方に設置しているBグループは関西サーバーに、など割り当てることができるのはもちろん、そのグループ設定や割り当て先の切り替えなど管理画面から簡単に行えることがえきるのがSORACOM Beamの特徴です。
3.SORACOM Canal
IoTのビジネス活用ではセキュリティ体制が重要とお伝えしましたが、クラウドでも同様です。
では、AWSなどのクラウドサービスはどのようにそのセキュリティ課題を解決してきたかというと、その一つとして「バーチャルプライベートクラウド」環境というようなクラウド内でも閉じた「非公開領域」を作れるようになったことが背景としております。
そのプライベート接続サービスを活用し、よりセキュリティを強化するサービスがSORACOM Canalです。
メリット1:プライベート環境内でソラコムとサーバーを繋ぎセキュリティをより強固に
冒頭にも述べた通りソラコムの代表は元AWSの方であり、ソラコムもAWSで動いているシステムです。そしてもちろんプライベート環境内でそのサーバーは稼働しています。つまり、このSORACOM Canalは同じAWSのプライベート環境を活用している企業とソラコムのサーバーを「AWS閉域網ネットワーク内」で直接通信を行なうというサービスです。
同じプライベート環境内であればインターネットを介さず通信できるため、機密性の高いデータでも漏洩等を気にせずデバイスからからサーバーにアップロードすることができます。(もちろんデバイスからソラコムへの通信においても、企業向けネットワークで問題ないとされている3G/LTE通信なので安心です。)
いわばAWSのプライベート環境を使っている利用者からすれば、SORACOM Beamよりもさらに簡単・安全にデータの送受信ができる機能と言えるでしょう。
もちろん、企業の情報システム、サーバーのすべてがAWS上に配置しているわけではありません。そこで、AWS外のシステムとの間で専用線を結び、安全に接続するサービスが、次に紹介するSORACOM Directです。
4.SORACOM Direct
ソラコムからAWS(アマゾンウェブサービス)以外のサーバーに専用線で接続するサービスがSORACOM Directです。その名のとおり「ダイレクト」となっており、他の機能に比べてわかりやすいですよね。
メリット:IoTデバイスからどんなサーバーへもセキュリティ万全の閉域網で接続できる
このサービスで接続されたサーバーとソラコムのサーバーはプライベートIPアドレスでアクセスできるインターネットを介さない機密性高いアクセスを実現できます。
SORACOM Beamはインターネットを介する通信ですが、CanalとDirectは直接のサーバーを繋ぎこむためよりより高い企業のセキュリティ基準をクリアすることができると言えるでしょう。
5.SORACOM Endorse
AからDときて、次にご紹介するのは「認証」という意味をもつSORACOM Endorse(エンドース)です。これは任意のIoTデバイスとのサーバー接続を簡単に許可することができる機能です。
IoTデバイスを量産したとしても、それぞれの個体を識別することができユニークなデバイスとしてサーバーとのやり取りを可能にします。
例えば私達がSIMカードを契約しているキャリアが、スマホにインストールしているアプリの種類や通話状況などの情報を簡単に取得でき、かつスマホ内の設定を変更できてしまうというようなイメージと考えればいいでしょう。
もちろんスマホでそのような操作をされるのはNGですが、IoTデバイスにおいて面倒なID、パスワードによる認証作業なしにサーバーとの情報がやりとりできる点は面白い仕組みと言えます。
メリット1:SIMを使った認証を各企業にも開放
前述したとおりソラコムはSIMカードを使ってIoTデバイスと通信を行なうサービスですが、このSIMにはそれぞれ個別の情報が付与されており、かつ不正に中身を読み取ったり改ざんしたりすることができない仕組みが施されています。
そしてこれまでは通信事業者のみ、そのユニークなSIM情報を使った利用者の認証作業や通信の暗号化ができていたのですが、このSORACOM Endorseは通信事業者でなくても、このSIM情報による認証作業をできるようにしたわけです。
メリット2:一度認証を行えば Wi-Fi経由でも認証を引き継げる
多くのデータを蓄積したIoTデバイス、その情報をサーバーへアップロードする必要がある場合、SIMによるモバイルデータ通信よりもWi-Fiを使ったほうが通信コストを削減することができます。
しかしWi-Fiネットワークのみを使うと、「このデバイスからのアップロードを許可していいのか」どうかサーバーではわからないため、通常固有のID,パスワードをデバイス側で入力する必要があります。
このSORACOM Endorseを使えば、認証部分だけSIM通信を使い、後のアップロードはWi-Fi経由で行なうなどの使い分けが可能になります。
もちろん、サーバーへのログインに関してもこのEndorse機能を使うことができ、一度認証を行えば、Wi-Fi経由でスマートフォンやタブレットでもIoTデバイスとの通信を簡単に行なうことができます。
簡単にいうと、複製が難しく中身は簡単に読み取れないSIMの特徴を活かして、各IoTデバイスからの通信が正しいものかどうかをソラコムが保証しているというのがこのSORACOM Endorseの仕組みです。
6.SORACOM Funnel
最後のFはファネルです。IoTの活用と隣合わせで必ず考える必要があるのが「ビッグデータ」です。大量のデバイスから、継続的にデータがクラウドに上がってくるIoT時代においてそのデータをどう処理し効率的にサーバーに配分していくかはセキュリティ面と合わせて大きな課題でした。
このSORACOM Funnelはその大量のデータを適切に処理する中継サーバーを不要にし、クラウド上のサーバーにIoTデバイスから得られたデータを直接転送することができるサービスです。
メリット:大量のデータをクラウドへ直接送り込む
SORACOM Funnelは、今最も利用されているクラウドサービスであるAWSと、Microsoft Azureへのデータ転送を簡単に行います。具体的には「Amazon Kinesis」「Amazon Kinesis Firehose」と「Microsoft Azure Event Hubs」の3つに対応していますが、これらのクラウドへ接続するためのパスワード等をデバイスに持たせる必要なく、指定の場所へソラコムを通じてデータをインプットします。
SORACOM Beamと少し似ていますが、クラウドに特化した接続サービスといえます。数万以上ものデバイスがある場合、1時間あたり何テラバイトにもなるような大量のデータが生成されますが、それらを迅速にクラウドに送り込み、リアルタイムに分析したいという場合に有効な機能とも言えるでしょう。
ソラコムの導入事例について

Air、Beam、Canal、Direct、Endorse 、Funnelと今リリースされている6つのソラコムが提供するソリューションをご紹介いたしました。どれも綺麗にアルファベット順となっていて面白いですよね。
高いセキュリティ性と柔軟な課金体系を武器のこれからのIoT時代のプラットフォームとなりうるソラコム、最後にこの導入事例についてご紹介します。
eConnect Japanの場合:訪日外国人向けにSIMカードを販売
日本国内で自由にインターネットができるよう、訪日外国人に対してSIMカードを提供する会社がeConnect Japanです。同社はSORACOM Airのリリースに合わせて、提供するSIMのすべてをソラコムのものに変えたといいます。理由としてはそのフレキシブルなソラコムの料金体系、導入する前のSIMカードの通信費用原価は決してビジネスに適しているものとは言いがたかったといいます。
従量課金が基本となるSORACOM Airが登場したことによって、定量型と日数型などの独自プランを初めて持つことができ、よりユーザーの選択肢を増やすことに繋げることができただけでなく、SIMカードのアクティベートなど面倒な作業を排除することでビジネスの拡大にも貢献できたといいます。
元からSIMカードを提供している同社もソラコムと同じMVNOといえますが、直接NTTから電波帯域を提供してもらうよりソラコムを経由したほうがより利便性が高まるという、”MVNOのMVNO”というソラコムの価値を表す面白い事例と言えるでしょう。
Akerunの場合:ブラウザ経由で遠隔地から鍵を開ける
ホーム型IoTデバイスの代表格といえるサービスが「Akerun」です。物理的な鍵ではなく、スマホによって解錠/施錠を行なうことができるスマートロックサービスで、合鍵の発行、共有、削除、入退室の参照など簡単に行なうことができるのが特徴できす。
法人ユーザーや年配の方が利用するスマートフォン以外の携帯電話(フィーチャーフォン)でもAkerunを使いたい、遠隔地からの施錠/解錠を行いたいというユーザーニーズを解決するために同社はIoTデバイス「Akerun Remote」を開発しました。
ユーザはモバイルのWebブラウザ経由でインターネットを通じてドア近くに設置したAkerun Remoteに接続し、Bluetooth通信でAkerun本体を操作するというものです。
そのAkerun Remote内に内蔵されているSIMこそSORACOM Airです。遠隔地からIoTデバイスを操作するための通信手段としてソラコムのソリューションが選ばれているわけですが、その決め手としてコストが安い点、料金体系が明瞭な点、SIMが発注しやすい点など、様々なメリットがあったといいます。
IoT時代のプラットフォーマーSORACOMのこれから
以上、ソラコムのサービス内容をできるだけわかりやすくご紹介したつもりですがいかがでしょう?難しい部分は記載していませんが「ソラコムでこのようなことができるんだ!」という点だけでもご理解頂ければ幸いです。AmazonのAWSのおかげで世界中で多くのWEBサービスやアプリが生まれたように、そしてNTTが提供する通信帯域で多くの人々がコミュニケーションをしているように、ソラコム上でも多くのIoTデバイスが生まれそれぞれが通信をしていく仕組みを作っていきたいと代表の玉川氏はいいます。
2つのプラットフォーム上を股にかけて、IoTプラットフォームを提供するソラコム、さらに”G”以降のサービスも随時発表していきつつ、グローバル展開、パートナープログラム、コミュニティ運営など行っていく予定です。
これからのIoT時代に向けて生まれるべくして生まれたともいえるソラコム、このプラットフォーム上でこれからどのようなIoTサービスが出てくるか楽しみでなりません。
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