2016年はこれからインフラとなりえる、大きなトレンドが着実に前進した1年だったと言えます。
IoT、VR、人工知能、ブロックチェーン、自動運転など、中でもVRに関しては各社から製品がリリースされ、一般にも普及され始めるなど大きな進展が見られた年だったと感じます。年始からすぐビットコインの時価総額も最高になるなど、今年も引き続き大きな注目を集めそうですね。
個人的に注目しているトレンドとしては、2016年10月に書籍も出版した「チャットボット」です。Facebook、Microsoft、LINEなどのプラットフォーマーが2016年前半から、その取組みを本格化し注目を浴びた同技術ですが以下のLINEの動画をご覧になればその可能性がお分かり頂けるでしょう。
ボットそれ自体で価値をもつだけでなく、友人たちとの会話をより円滑にしたり、様々な外部サービスを操作するハブとなるなど、メッセージングアプリのプラットフォーム化に伴い既存のアプリやwebサイトに取って代わる存在になるであろうと注目がされています(詳細はこちらを御覧ください)。
なんとアメリカでは既に半数以上の人がチャットボットを使ったことがあり、10%以上の人が常用しているというデータもあります(BIによる18〜55歳への調査) 。

Facebookメッセンジャー、WeChat、Kik、Slackなど企業や開発者によるチャットボットをディストリビューションしていくプラットフォームは様々なですが日本を市場とする場合、LINEは外せない選択肢です。
では、LINEで活用できる「チャットボット」というと、どのようなものがまず想起されるでしょうか? 多くのユーザーを抱えるりんな、パン田一郎が日本を代表する雑談ボットとして有名ですよね。他にもヤマト運輸やナビタイムのアカウントも実用的なボットと言えそうですし、ドミノ・ピザもLINEから注文ができるようにしたところ、4ヶ月で1億円以上の売上を出すなど好調な様子が伺えます。
LINEはこの展開を公式アカウントに限らずOPEN化していこうとMessaging APIを公開し、ボット開発コンテスト(LINE BOT AWARDS)を主催するなどしてその母数を増やそうと尽力しています。
2017年はさらに実用的なチャットボットが出て来る年となるか。現状をみると、毎日利用するに耐えうるボットはあるとは言い切れない状況ですし、一般にもほとんど認知されていないでしょう。今年中に一般ユーザーにも浸透するキラーアプリならぬ、キラーボットの登場がないとチャットボットは単なる「バズワード」として忘れられてしまうことになるかもしれません。
チャットを通じた顧客とのダイレクトなコミュニケーションが可能であり、これまでのマーケティングやデザインの在り方にもポジティブな変化をもたらすであろう、チャットボット。日本における人工知能の進展を促すためにも、その流れを推し進めるべきだと弊社では考えています。そこで今回は多くのユーザーに支持される、チャットボットを生み出すための3つの条件についてご紹介します。以下3つのブレイクスルーを通すことで、チャットボットはより本質的な価値に近づいていくことでしょう。
1.人工知能ライブラリをもっと気軽に
今あるチャットボットの多くは人工無能の仕組みで開発されているものが多くある印象を受けます。人工無能とは、予め設定されているルールに沿って会話を行なう単純なもので、事前にプログラムされていない言葉が来たら、返答ができなくなる欠点をもっています。
文脈を踏まえた上での会話も、この単純な仕組みでは実装が難しいと言えるでしょう。
正直、まだ世に出回るボットのほとんどがこのレベルのものだということは否定はできません。ユーザーの期待値を大きく下回ることは明白であり、この状況が続けばチャットボットの可能性を狭めてしまうことに繋がります。
そこでぜひ今年からチャットボットの開発に取り組む方に、活用のご検討を頂きたいのが一般に公開されている人工知能のライブラリです。
筆者自身がそれぞれを活用したことがあるわけではないのですが、多くのプラットフォーマーからチャットボットをグンと賢くするツールが多数出揃っています。その中でもおすすめをいくつかご紹介するので、ぜひあなたのボットに取り入れてみるのはいかがでしょうか?
ユーザーローカルの「全自動会話API」
このAPIを使えば、りんなのような雑談型の会話を自身のボットに簡単に導入することができます。
もともとソーシャルメディアの口コミ分析事業を行っていたユーザーローカル。同社が保有している膨大なテキストデータをもとに、自然な受け答えを実現することができるAIエンジンです。独り言のようなちょっとしたつぶやきに対しても多様なバリエーションの会話を実現でき、ユーザーはボットとの雑談を楽しむことができます。
これを使えば設定されていない言葉が入力された時もそれらしい会話を続けることができるためユーザーの離脱を出来る限り押さえることができます。そのAPIの利用方法はこちらのページからダウンロードできる資料に記載されています。
Facebookの「Wit.ai」
Facebookが2015年に買収した自然言語解析サービスのwit.aiです。同社が買収したことで無料で使えるようになっており、日本語にも対応されています。 その発言が、どういった意図を持っているのか(インテント)、そしてその発言のなかにある、意味のある単語(エンティティ)をそれぞれカテゴライズしていくことで自然言語を理解する仕組みボットを作れるのがこのwit.aiです。
あらかじめ設定していくことで文脈や類似後も判断できるようになるライブラリであり、実用的なチャットボットを作る上では絶対に抑えておきたいものであるといえます。Facebook社のサービスですので、Facebookメッセンジャープラットフォームに最適化されていることは言うまでもありません。ちなみに同様のサービスを提供するapl.aiはGoogleに2016年9月に買収されています。
Googleの「Cloud Vision API」
GooglePhotoを見ても分かる通り画像認識の技術においては、大きくリードしているといえるGoogle、その他の追随を許さないテクノロジーをAPIで誰でも使えるようにしてくれています。
画像に何が写っているかを戻してくれるのはもちろん、タグをつけたり、被写体の人物の感情類推、画像内のテキスト分析、不適切なコンテンツの管理などなど、ユーザーから画像を送ってもらうボットを作成する上で検討すべきAPIです。詳細はこちらからぜひご確認ください。
Googleの「Tensorflow」
他に比べ利用の難易度は高いですが、数万以上のユーザーに頻繁に利用してもらえるボットであれば機械学習ライブラリであるTensorflow(テンソルフロー)を試してみるのもいいでしょう。
上手く使えば、ユーザーから寄せられる画像やテキストから自動で特徴量を見つけ出し、それをフィードバックさせることで会話の精度をどんどんあげていくことも可能になるでしょう。
こちらはディープラーニングのライブラリに分類されますが、他にも以下のようなものがありますので興味のある方はぜひ活用してみてください。※()はそのライブラリを提供している企業です。
Chainer (Preferred Networks)
Torch(Facebook)
DSSTNE(Amazon)
CNTK(Microsoft)
Watson(IBM※ディープラーニング以外にも多くの人工知能サービスを提供しています。)
本当に大手企業がこぞってこの分野でのイニシアチブをとっていこうとしているのが見受けられますね。
今後、あらゆるサービスに何らかの切り口で人工知能技術は練り込まれるようになっていくでしょう。いち早くそれらを取り入れ、多くの会話データを蓄積することができるチャットボットが、上記サービス郡のポテンシャルを有効に活かすことができると考えます。
新しいテクノロジーを採用し、ユーザーにとって価値ある会話の仕組みづくりを(試行錯誤しながら)積極的に行っていくことが、チャットボットの進化を加速させるための条件になると言えるでしょう。
2.人の対応:価値を出すにはまず生みの苦しみを
上記に述べた「人工知能のライブラリをもっと活用しよう」と矛盾してしまうかもしれませんが、最初に人が介在することで行なう会話データ最適化の有無は、その後のボットの提供価値において大きな差がでるように感じます。
もはや「ボット」と呼べないかもしれませんが、チャットボットの初期の段階では、人間がその「中の人」となり対応することは、遠いようでいてボット最適化への効果的な近道だと考えています。その理由としては以下3点にまとめられます。
2-1.初期ユーザーを満足させることができる
ボットをリリースした直後、改善もなされていない状況で使ってもらったとしても、その段階で理想のユーザー体験を提供できるわけはありません。もしかすると継続的に使い、課金もしてくれるであろう確度の高い初期ユーザーの信頼をそこで裏切ってしまうのは、開発者的にも市場的にも、もちろん貴重な時間を使ってくれたユーザーにとってもよくありません。
アプリやwebよりも簡単に目的が達成できるのを期待して、ボットを使うわけです。チャットの相手が人なのかボットなのかはユーザーからは関係なく、他の手段よりも便利なことを期待しています。まずはユーザーの期待を上回る価値提供を目指し、ユーザーの満足度を最大化することに専念しましょう。普通のサービスであればユーザーの課題を解決できる最小限の機能からはじめ、改善を行っていくわけですが、チャットボットは提供するソリューションを出す前に離脱されてしまう可能性があります。
2-2.会話コミュニケーションの最適化を行える
人力となると、最初は多大な労力を必要としますが、ユーザーを増やしていき会話データを増やしていくことで、そこからある一定のパターンが見えてくるでしょう。
ユーザーの課題をすばやく解決できる会話パターン、必ず反応が返ってくる言い回し、大きく感謝される+αのメッセージなど、実際のコミュニケーションから多くのデータを生み出すことで、そこからプログラムに組み込むべき”正解データ”を抽出することができます。
チャットボットはその名の通りロボットです。十分に情報がインプットされていないロボットに理想の動きを求める人はいません。
物理的なロボットのようにまずは人が動きを教え、正解データを含む大量のデータが集まってきた段階で、人工知能などの技術を上手く使うことで、はじめて人を上回る価値を提供できるようになるでしょう。繰り返しになりますが、チャットボットを軌道に乗せるには、人を介在させることがもっとも効率的なアプローチだと考えます。
2-3.最初からプログラムを書く必要がない
利用者にとって価値があるかどうか不確かな会話のプログラミングに時間を割くことなく、貴重な開発リソースを最初から実証されている価値に投下することができるのもハイブリッド型のメリットの一つです。まさにリーンスタートアップ的な手法といいますか、「ユーザーに必要とされないものを時間をかけて作る」というスタートアップにとっての致命傷を割けることができます。
最初の返答など、人工無能レベルの開発は必要になるかもしれませんが、コアな作り込みはまず実際の人によるコミュニケーションから導き出した”正解データ”を用意した後でも遅くはないでしょう。
以上のように、チャットボットといいつつも、本気で価値あるものを作るには初期段階では人とロボットのハイブリッド型が必須だと考えています。まさにその好例がグルメQ&Aアプリのペコッターで、これは人力で運用するキャラクターや他の一般ユーザーがオススメのお店を紹介してくれるサービスです。拙著でも開発者の松下さんにインタビューを行ないましたが、人による最適解のアンサー情報(お店の予約に繋がるアンサー)を今後自動化に繋げていくとのことでした。
実際には人がやりとりをしている人工知能スケジュール管理の「x.ai」や、数百名のチャット担当がいるといわれるFacebookの「M」などを見ても、ボットと人のハイブリッド型は遠いようでいて最も最短で価値を出せるチャットボットの在り方かもしれません。
3.ボットではなく体験をデザインしよう
2016年はチャットボットとなる概念がテクノロジー業界に普及した年で、まるでそれが魔法の杖であるかのようにもてはやされたはしたものの、結果的には人々の期待を超えるレベルには到達しませんでした。
その原因の一つがチャットスレッド上でユーザーの課題を解決できる、というチャットボットへの過信にあることは否定できないでしょう。
もちろん有効に使えば、サポートの担当者よりも迅速に返事をもらえ、アプリよりも簡単に操作でき、webサービスよりも簡単にアクセスできるテクノロジーです。そのスレッド上でのソリューション、つまり「テキスト」を用いた手段にとらわれるばかりで、ユーザー体験が後回しになっているのではないでしょうか。(カルーセル形式の選択肢の提示はFacebookメッセンジャーにおいて初期から見られるUIで、チャットスレッドに適した魅せ方ですが、まだ改善の余地があるように感じられます。)
上記踏まえて以下にチャットボットにおけるユーザー体験のポイントをご紹介します。
3-1.全てをボットにする必要はない
ボットはまず検索、ショッピング、雑談やゲームなどのエンターテイメント分野の3ジャンルにおいてまず価値を発揮すると考えておりますが、見出しのとおり今提供している仕組みを全ておきかえる必要はありません。
例えばATMや自動販売器は自動化され便利ですが、レストランやアパレル店で機械から商品を購入するのはどうでしょうか。webやアプリにおけるアプローチにおいてもボットが適しているものとそうでないものを見極める必要があります。
例えば、チャットスレッドはPinterestやInstagramのようにビジュアルや情報を網羅的に閲覧するための設計はされていません。

また動画を使うなどした世界観作りやブランディングにもあまり向いていないといえます(あくまでもプラットフォーム上でボットを提供する際の話しで、独自でボットサービスを構築するのであれば話しは別です)。
「ユーザーに提供したい価値は何か?」をあくまでも念頭におきユーザー体験をデザインすることが重要で、その上でボットがフィットする側面を熟考していく必要があるでしょう。
3-2.ディティールが重要
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ボットが発するテキスト内容ばかりにフォーカスするのではなく、もっと会話をしたくなる細かなディティールにも私たちは目を向けるべきです。
吹き出しのちょっとしたアニメーション、クスっと笑える冗談、選択肢のセンスのよさなど、実際の会話を伴う仕組みだからこそ、細かなところまで人間味やユーモアを取り入れることがボットと感じてもらえるための差別化要因となるでしょう。GoogleのUXデザイナーのAdrianさんは以下のようにも述べており、それは会話内容だけでなく、ディティールにも同様のことが言えると思います(引用記事はこちら)。
対話型のインターフェースの開発は技術的な挑戦だけではなく、ソーシャル(社会的)な側面でも多くの挑戦を抱えています。
3-3.毎日、長時間使ってもらえるボットが正解ではない
ユーザーの課題を解決することにフォーカスするべきで、ゲームアプリのように長時間ユーザーを縛り付けておくことが必ずしもボット運用において正解とは限りません。
タクシーを呼ぶ、モノを買う、調べ物をする、音楽を聞くなど、特定のニーズを満たすボットはGoogleの検索結果のアプローチと同じで以下に早く目的を達成できるかが一つの指標となるでしょう。
ニュース、天気、株などの情報を提供するボットであれば、なによりもリピート率は重要になるでしょうし、アニメや映画のキャラクターを用いたそのPR用のボットであればキャンペーン中の短期間だけでも高いエンゲージメント率が求めれるでしょう。
雑談系、お笑い系、ゲーム系などエンターテイメントの要素があるボットは比較的リピート、エンゲージメント率は高い数字がでる傾向がありますが、その方向性のボットを目指しているのでなければ、強引な会話でユーザーを留めようとすることは返って逆効果になってしまいます。
2017年末に日本中で使われているキラーボットは生まれるか?

以上、チャットボットを今以上に浸透させるために必要だと考える3つのポイントをまとめてみました。
1.人工知能ライブラリの活用、2.人間とのハイブリッド化、3.会話だけではないUX
まだまだその認知拡大や利用者の獲得などボットのマーケティングにおいて課題がありますが、LINE社が開催するBOT AWARDSなどを通してこれから一般にも”チャットボット”の概念が認識されていくことでしょう。
実際Facebookメッセンジャーでは非常に目立つところにボットへの導線が置かれています。LINEにおいてもAIやチャットボットに力を入れていることは明白であり、実用に耐えうるボットが揃いさえすればすぐにその導線も作られることでしょう。
その初期にLINEスタンプクリエイターが大儲けしたように、この黎明期の段階で有益なボットを作れるクリエイターにも大きなチャンスがあります。
過去のブログでも伝えていることですが、同時に何万人とも会話をすることができテキスト、画像、音声を大量に集められるチャットボットを有効に使うことは、人工知能の可能性を切り開くことと同義です。90年代の初頭のインターネットが登場した際、これを何に使うべきか多くの人は理解していなかったといいますが人工知能も今同様のフェーズでしょう。
メール、EC、ポータルが最初のインターネット上のキラーアプリになったように、ボットがメッセージングプラットフォーム、そして人工知能というインフラ上で新たな定番となり、それ自体がプラットフォームになる可能性さえすらありえます。
Amazon Echoの勢いもますます増すことでしょうし、テキストに限らず”音声”においても会話のデザインは求められることになるでしょう。「会話に縛られないUXを」と述べましたが、よいデザインはどんどん取り入れられ結果的に一つに収束されていくのは過去の例から学べます。
そんな中、自社だけが提供可能な本質的な情報(アセット)や差別化できるコミュニケーションは何なのか、これからボットを提供していく企業はより深く考えていく必要がありあそうです。
余談:
やはりマネタイズのポテンシャルが高いのはリピートとエンゲージメントの高いボットです。そうであればニュースや天気の情報と、エンターテイメント的な要素をかけ合わせたボットがいいのではと考えています。毎日送れるプッシュ通知の文脈が作れ許可してもらうハードルが下がりますので…そういった意味で最初のFacebookメッセンジャーのパートナーであるPonchoなどは注目に値しますね。
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