PVの次の指標へ。メディアの新しい在り方となるか?NowThisにみる分散型メディアの未来

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“BuzzFeedはサイトを持たなくてもいいんじゃないか”

これはコンテンツの月間ページビュー(2015年11月)が50億ビューにもおよぶお化けメディア「BuzzFeed(バズフィード)」の編集長が2014年に語った言葉です。BuzzFeedは“バイラル系メディア”の代表格とも呼ばれ、ソーシャルメディアで拡散されやすいまとめコンテンツとニュースを大量生産することで成長したメディアです。


ソーシャルメディアから圧倒的なトラフィックを得るBuzzfeedとは?

buzzfeed
2006年にハフィントンポストの共同創業者ジョナ・ペレッティによって起ち上げられ、2014年にはその収益が1億ドルに及ぶなど大きく成長している気鋭のメディアとして多数の読者を獲得しています。2016年の初旬にはBuzzFeed Japanとして日本版も創刊するなど今ノリにのっているメディアと言えるでしょう。バナー広告ではなく、主にネイティブアド(自身のウェブサイト上のコンテンツと同じ形式で広告を掲載するスタイル)で売上をあげており、また最近では動画に注力しているとのことでFacebookで最も再生された動画やシェアされたコンテンツとして常にそのトップに位置しています。(そのアクセスの75%はソーシャルメディア経由とのこと)

Buzzfeedの紹介から話しを戻しまして、拡散させるコンテンツを作り、そこからの広告ビジネスに依存しているはずのメディアBuzzFeedの編集長が上記のように語った言葉の真意はどういうところにあるのでしょうか?

”すべてのBuzzFeedのコンテンツは、他のプラットフォーム上で生きていけるだろう”

その意図としてこのように語っており膨大なソーシャルメディアからのトラフィックを踏まえた今、各ソーシャルメディアのプラットフォームに最適な形式にしたコンテンツを生み出すほうがそこに存在する読書に対してのエンゲージメントを高められるとBuzzfeedはいいます。

そこではメディアビジネスの重要指標となるPV(ページビュー)UU(ユニークユーザー)を正確に算出をするのは難しいでしょう。しかしこの言葉からは、その黎明期から変わらずWEBメディアが行っている広告ビジネスのブレイクスルーを感じさせることができます。最初のフェーズは既存のブランド知名度やSEOを活かした検索エンジンからの流入、第2フェーズはまとめ記事など思わずシェアしたくなるソーシャルメディア受けするコンテンツからの流入、そして次のフェーズとしては自社サイトではなくソーシャルメディア上で完結できるコンテンツ提供となるのでしょうか。「分散型メディア」とも呼ばれるその第3の波の前では大きなビジネスモデルが変革が求められますが、実際既にその新しいトレンドを体現しているメディアの代表格として、「NowThis」(正式にはNowThisNews)というものがあります。

NowThis(ナウディス)読者のいる場にコンテンツを届ける分散型メディアの代表格

nowthis

NowThis(ナウディス)とは自社サイトを持たずに、各種ソーシャルメディアに最適化した動画コンテンツを配信する2012年にスタートしたメディアです。主にニュースが中心となっており、その即時性のある情報発信、オーディエンスが求めるコンテンツ、クオリティの高い動画編集がウリとなって伸びているメディアです。

いまだにモバイルサイトとアプリはありますが、Facebook、Twitter、インスタグラム、Tumblr、Snapchat、YouTubeなどに、1日あたり50本から60本のニュースコンテンツを「直接」配信しています。それらの情報は自社サイトに流入させるためではなく”そこ”でコンテンツを消費してもらうのが目的であり、その読者は主に18〜34歳の普段ニュースを読まない若い世代となっており、既存メディアがなかなかリーチできない層に支持されているメディアとして注目を浴びています。

一部ですが各プラットフォームのフォロワーは2016年1月現在以下のようになっており、そのフォロワーは加速度的に増えてきています。(Snapchatは数は確認できませんがFacebookに次いで、もっとも成長が見られるプラットフォームとのことです。※Facebookは約半年で250万ものファンを増やしています。)

Facebook:330万人
Twitter:38万人
Vine:43万人
Instagram:24.5万人

サイトにアクセスするとそこには「ホームページはもう古い」と挑発的な言葉があるNowThis、そのPVを指標としない気になるビジネスモデルは主にクライアントの広告コンテンツを作るネイティブアドと、提携しているメディアへ動画配信による売上のレベニューシェアとなっています。

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レベニューシェアはヤフー、AOL、MSNなどのポータルサイトに動画を配信することでそのポータルサイトにおける動画視聴からくる広告売上からお金を折半するモデルです。おもしろいのがもう一方のネイティブアドで、NowThisで制作している通常のコンテンツで、もしそのクライアントとなる広告主に適したものがあればヘッドラインにブランド名を入れるなどして、動画を広告として活用してもらう仕組みをもっているといいます。

情報発信の即次性という強みを活かした広告メニューとなっており、他にないユニークな取組みと言えます。もちろん通常の広告となるコンテンツ制作も行いますが、NowThisは他のメディアではなかなかリーチしえない若い読者とのコミュニケーションチャネルとして支持されているといいます。

NowThisの強み

参照元:「分散型メディア」の作り方。プラットフォーム別に見る「NowThis」の#LoveWinsコンテンツ
参照元:「分散型メディア」の作り方。プラットフォーム別に見る「NowThis」の#LoveWinsコンテンツ

では、上記に紹介した概要を踏まえて見えてくるこの分散型メディアの強みはどこにあるのでしょうか?自由にコントロールできる自社サイトではなく、各プラットフォーム上で展開するメディアは一見リスクが高いように見受けられます。もともと動画ニュースサイトであったということもあり検索エンジンに頼らない戦略に舵をきったこのNowThis、常にバズる動画を作り続けなればいけない方向に走るからこそ見えてくるその強みを以下に見ていきたいと思います。

ビジネスを行なうには人々がいる場所で

instagram

あなたがいつも見るWEBサイトやアプリは何ですか?恐らく多くの人がFacebook、Twitter、Instagram、LINE、YouTubeなどのソーシャルメディアを挙げると思います(特に若い世代になるに連れて顕著でしょう)。Facebookに関しては驚異的でなんと毎日使う利用者が10億人におよび、その毎月の平均利用時間は27時間以上になるといいます。以下参考記事ですが2015年夏の記事なのでさらにその数字は伸びていることでしょう。

参考:
Facebookの1日の利用者数が10億人を突破しザッカーバーグが描く究極の以心伝心コミュニケーションに一歩前進
アメリカの Facebook ユーザーは、このソーシャルで 27時間/月 を消費する!

日本に関しても特に2015年はインスタグラムが大きく伸びた年といえ、調査によるとその認知率は72.8%にまであがりユーザー数も2016年1月現在おそらく日本で1,000万人を超えているでしょう。(2015年10月で810万人)

今や多くの若者がGoogleではなくインスタグラムのハッシュタグでヘアスタイル、ファッション、料理などあらゆるものを検索するそうで、画像SNSの枠を超えた使われ方すらされはじめています。

また、Facebookは「インスタント記事(インスタント・アーティクルズ)」に昨年から力を入れ始め、各メディアのコンテンツを自社サイトではなくFcaebookのニュースフィード上で消化させる試みを行っています。前述したBuzzFeedをはじめ欧米の主要メディアはもちろん、アジアのメディアもこの流れに乗り圧倒的に多くの利用者と滞在時間をもつFacebookというプラットフォームでの読者獲得に励んでいます。

これまでFacebookから外部サイトへ誘導する際、そのロード時間に平均8秒を要してたといいます、モバイルネイティブのユーザーにとってはとてつもなく長い時間… そこで読者を取り逃がすよりはそこでコンテンツ自体を消化してもらおうという考えでこのインスタント記事機能が登場しました(なんとその速度は10倍まで改善されています)。※日本でも2016年5月から提供開始とのことで、朝日新聞、産経デジタル、東洋経済、日本経済新聞、毎日新聞、読売新聞という大手メディアがはじめから参加予定です。

ノート機能の拡充や360度動画の提供もはじめており、今後さらに人々がFacebook上で滞在していく時間は増えていくことでしょう。

またTwitterも1万文字のツイートが可能になるとしていますが、この背景として長文のコンテンツを画像として投稿するユーザーが増えてるのが理由だといいます。画像で投稿されると検索にも引っかからないですし、何より広告として活用することもデータを集めることもできません。”Twitter上でコンテンツを消化”するユーザーの使われ方を踏まえて検討しているこの1万文字ツイート、これが実現すればFacebookのインスタント記事同様、Twitterを移動せずともコンテンツを楽しめるようになるのは容易に想像がつきます。

駆け足で主要ソーシャルメディアの近況をご紹介しましたが、このように今、人々は検索エンジンでも各種WEBサイトでもなくソーシャルメディア上にいるのです。釣りをする時は、魚が全くいない池で釣り竿を垂らす人はいませんよね?それはNowthisの戦略にも繋がるところであり、ソーシャルメディア上に人がいるという事実を受け入れその思想をいち早く体現しているメディアと言えるでしょう。その先見性あるノウハウは競合メディアだけでなく、今後各分野から求められることになります。

多様なユーザーを分析するノウハウと速攻で動ける仕組み

参照元:Now, that: NowThis News shifts gears
参照元:Now, that: NowThis News shifts gears

”人々はソーシャルメディア上にいる”と上記で述べましたが、これは半分正しく半分は間違いかもしれません。なぜならFacebookとSnapchatにいる人々の属性は大きく違うからです。また米国では若者はTwitterをやっていないことが多いとのことで、各種プラットフォームごとに全く異なるコミュニケーション方法が求められます。もちろんそれぞれのソーシャルメディア内でも性別、年齢、所属、地域などによって同じ内容でも読者からの反応は様々であり、NowThisの強みの一つが各種媒体からの反応率やシェアされる速度などのデータを多く保持しているとこいうことです。

それらのデータを用いることで、例えば、スナップチャットならおもしろおかしく、インスタグラムは情緒的な写真を用いて、キャプションは最小限に抑え、最大の読者を持つフェイスブックへの配信は、色とりどりのキャプションを使ってニュースを理解してもらうことに注力する、などの最適な情報の伝え方を実践することができます。

つまりNowThisは制作した動画を各ソーシャルメディアにあわせて再生時間を調整するのではなく、各プラットフォームから導き出されるデータに合わせて、ゼロから最適な動画を作っているのです。

そしてもう一つ注目に値するのがロイター、AP、ABCなどから配信されたニュース映像を元にほぼリアルタイムで制作されるその動画コンテンツです。毎日ニュース動画60本あまりを各ソーシャルメディアに精通したニュースプロデューサー20人と約40人の動画スタッフが制作し、さらにどんな人がどんな時にソーシャルメディアを活用しているかというインサイト分析の専門家と共に各媒体へ直接投稿していくそのスピード感、これこそが旬で即時性のあるコンテンツをソーシャルメディア上で求めている、若い世代を虜にしていく秘訣と言えるでしょう。

繋がることと多面的なリーチで築きあげるエンゲージメント

参照元:BuzzFeed CEO曰く「リンクのシェアは時代遅れ。コンテンツを流せばチャンスが広がる」
参照元:BuzzFeed CEO曰く「リンクのシェアは時代遅れ。コンテンツを流せばチャンスが広がる」

Buzzfeedに関する記事(リンクのシェアは時代遅れ。コンテンツを流せばチャンスが広がる)の引用となりますが、各種ソーシャルメディアからのトラフィックは月間でTwitterから1250万、Pinterestからは6000万、そしてFacebookからは3億4900万となっています。それを見るだけでも各ソーシャルメディアの媒体力の高さを感じますが、流入ではなくそこにおける投稿自体の表示回数をみるとTwitter上で8億4700万、Pinterestで60億、そしてさらにFacebookでは113億という途方もない数字となっています。

つまりここから言えることはサイトPVを上げるためのフォロワーではなく、各ソーシャルメディア上での”繋がり”を活かし、人々がいる場所でコミュニケーションをしたほうが圧倒的多くの人々と深い関係性を築きあげることができるということです。Facebookのインスタント・アーティクルズに主要メディアが殺到しているところからもその有用性が理解できるかと思いますが、ソーシャルメディア上での繋がりとその場でのコンテンツ提供はフォロワーとの関係性を強くします

また大抵の人は2,3個のソーシャルメディアを併用していますが、分散型メディアではそれぞれのプラットフォームを横断して1人の読者と繋がりを作ることできるので、その関係性を最大化することができます。そこでは一つのコンテンツをその名のとおり、分散させることで効果的に売上をあげることができるのです。

Buzzfeed、並びにNorthisにも出資をしているソフトバンク・キャピタルのフィル・シェブリン氏も以下のように語っています。

「バズフィードは収入を拡大するために分散型コンテンツをやろうとしている。それぞれのプラットフォームで稼ぎたいんだ。プラットフォームごとにコンテンツを出すのは、ある意味ハリウッドのビジネスモデルに近い。ハリウッドはまず初めに映画館にコンテンツを流す。次に飛行機に出す。次にケーブルのVODに出す。最後にタダでテレビで流す。人々は何度も同じコンテンツを別の場所でなら見る。なぜなら、忘れるからだ。Webでこれに近いものができるのではないか、というのが分散型の考え方の1つだ。

NowThisから見える分散型メディアの未来

参照元:Mobile, Social News Startup NowThisNews Acquires Video Distribution Platform Cliptamatic
参照元:Mobile, Social News Startup NowThisNews Acquires Video Distribution Platform Cliptamatic

以上、人々がいる場所で、そこに最適な魅せ方で情報を適切に届けるNowThisの強みをご紹介しました。

各種プラットフォームに最適化したコンテンツ生成を行い、読者を着実に増やしていくNowThisに代表される分散型メディア、この新しいメディアはどのような未来をもたらしうるのでしょうか。

その可能性の一つに次世代プラットフォームへのコンテンツ提供者としての存在が考えられます。

こちらの記事(今さら人に聞けない!IoT、VR、AI、フィンテック..2016年に注目すべき最新のITトレンド6選)でも述べているのですが、今後スマートフォンやソーシャルメディアに変わる次のプラットフォームとしてIoT、VR、AIなどが存在します。それらはこれまでのインターネットとは比べ物にならいほどのインパクトを私達にもたらしてくれるでしょうが、そこで触れることのできる最適なコンテンツは今後さらに生まれてくれるであろう”分散型メディア”と呼ばれるものが担うことになるのではないでしょうか。

自社サイトではなく、各プラットフォームに最適な形で情報を提供する分散型メディア、データ中心でかつスピード感溢れるその運用体制など特にIoT時代におけるコンテンツ消費の在り方としてマッチしているように感じます。車、家電、家具、衣料、建物などなど様々なものがネットワークに繋がり、あらゆるモノが媒体となりえる今、そのメディアフォーマットは今のデジタルディスプレイとは比にならないほど多様化されます。

一歩間違えばカオスな状況にもなり得るかもしれないIoT時代における情報とのつきあい方、そんな時代だからこそ各種メディアでのコミュニケーションを知り尽くしているNowThisのような分散型メディアがより価値を発揮していくようになるでしょう。人々がいつもいる場所は”今ここ”です。その瞬間に適切な形で情報を流通させることができるIoT時代(もうすぐそこまできています)こそ、PVに依拠しないコンテンツノウハウを持つ分散型メディアが主流となっているでしょう。



弊社では分散型メディアにおけるコミュニケーションコンサルティングはもちろん、そこから売上にまで繋げる「分散型コマース」の支援まで行います。ECプラットフォームにて20万近いネットショップから得たノウハウを活かし、あなたの課題解決に貢献いたします。お問い合わせはこちら( haisai@okinawa.io )まで。

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