ブランドと顧客のコミュニケーション方法を大きく変革する新たなトレンド「会話型コマース」、初めてその名前を聞く方も多いでしょう。会話型コマースとは、リアルタイムなチャット、メッセージング、会話等を通して行なう企業と人々のコミュニケーション方法を指します。
基本的には購入、予約、インストール、申し込みなどのアクションを伴う購買活動に用いられる手法ですが、今や顧客サポートやアフターフォローにおける顧客満足度をあげるための手段としての活用も進んでいます。
これまで人々はオンラインで何か購入をする際、まず広告を見てその商品を認知し、検索をして比較検討し、ブランドのWEBサイトに訪問して必要情報を入力し決済を行なうなどのアクションが必要でした。そのようなこれまでのインターネット上における煩雑な購買活動をよりシンプルで手軽なものにし、かつその顧客に最も最適なサービスを提供できる手段が今回ご紹介する「会話型コマース」です。
近年、その会話型コマースが注目されている背景としてスマートフォン上における人々の活動内容の変化があげられます。スマホ上で最も多くのユーザーが使うサービスとして、Facebook、Twitter、Pinterestなどのソーシャルネットワーク系のアプリが長らくそのトップを維持していました。
しかし、上記のグラフのとおりBUSINNES INSIDERによると2015年の段階でそのトップの座がWhatsApp、WeChat、Facebookメッセンジャーなどにおけるメッセージングサービスに塗りかえられたといいます。日本におけるLINEにおいても国内利用者数が5,800万人と、日本人口の約半数が使うサービスとなっておりFacebookの2倍以上の利用者数を誇っています。
これまで難しいといわれていたメッセージアプリのマネタイズですが、米国やヨーロッパに先行してLINEのスタンプ販売やWeChatの送金機能など主にアジアのサービスがそのマネタイズ手段を切り開いてきました。(膨大なユーザー数をかかえつつも売上を出す明確な方法をみつけることができずWhatsAppはFacebookに、Viberは楽天にサービスの売却をしています。)
これらアジアのメッセージアプリの成功事例にインスパイアを受けるかたちで、近年Facebookが大きな展開を見せ始めています。まずは、そのポイントを以下に3つご紹介しましょう。
Facebookが描く対話型コマースへの可能性

動画、VR,ドローンなど次の大きな領域に積極投資を続けるFacebookですが、この対話型コマースの文脈において、最も大きな投資を行っているといえます。上の写真はFacebookメッセンジャーの責任者であり、元Paypalの責任者デイビッドマーカスです。
Facebookメッセンジャーのプラットフォーム化
今や8億人に及ぶ利用者を誇るFacebookメッセンジャー、2015年からFacebookはこの巨大メッセンジャーアプリをプラットフォーム化しており、外部のサービスが自由にFacebookメッセンジャー内で自社サービスを提供することを可能にしました。例えばタクシー配車サービスのUberの機能はFacebookメッセンジャーに統合され、Uberのアプリを開かずともメッセンジャー上で直接配車を申請することができるようになっています。
外部サービスのGIF画像やスタンプ、音声サービスなどをFacebookメッセンジャーにインストールすることで、カスタマイズすることができるようにするなど、クローズドなコミュニケーションのメッセージングですが、そのツールを開発者にとって開かれたものにすることで小さなFacebookとも言える(既に8億人という規模ですが!)新たなプラットフォームを確立しつつあります。
そこではもちろん、対話型コマースの利用も想定されており、Businesses on Messengerとして顧客と企業のコミュニケーション方法をFacebookメッセンジャーへと移り変えようとしています。例えばEverlaneというECサイトではサイト上で商品を購入後、注文内容を変更したいときはメッセンジャーを通じてショップへ連絡をすることができます。
他にも、カスタマーサポートサービスのZenDeskとも連携されており、自社の顧客へのサポートメールをFacebookメッセンジャーから送ることもできます。顧客にFacebookメッセンジャー上で自社アプリをインストールしてもらうことで、プッシュ通知を送ることができるなど、WeChatやLINEに影響を受けたというメッセンジャーのプラットフォーム化を推し進めています。
パーソナルアシスタント人工知能「M」
プラットフォーム化に続く、もう一つのFacebookメッセンジャーにおける大きな変革がこの人工知能「M」です。iPhoneの「Siri」のようなパーソナルアシスタントであり、メッセンジャー上で質問をすれば天気予報、交通情報、気になる店舗などの様々な情報を教えてくれるのはもちろん、実際の購入や予約、申し込みまでこのメッセンジャー内で完結させることが特徴です。「沖縄に旅行に行くんだけどオススメのホテルはある?」ときけば「はい、リッツ・カールトンはいかがでしょう?予約しましょうか?」と返ってくるのがこの「M」です。
このAIのもう一つの大きな特徴がなんとその答えの生成に関して人工知能のみに頼らず、実際に人間が関わっている点です。メッセンジャーの中にはFacebookの従業員「Mトレーナー」が待機しており、人工知能の対応方法のチューニングだけでなく、実際に人が回答することもあるといいます。これによりMはユーザーの感情を読み取ることができるようになり、将来的により賢い人間味溢れる人工知能パーソナルアシスタントとなる可能性を秘めています。
まだ一部の地域での招待制のテスト段階ですが、今後全てのユーザーが無償で使えるようになる注目の機能といえるでしょう。
WhatsAppは無料となり企業とユーザーを結ぶツールへ
FacebookメッセンジャーだけがFacebookがもつメッセージングアプリはではありません。2兆円かけて買収をした世界最大のメッセージングアプリ「WhatsApp」もFaebookの傘下であり、この10億人もの利用者数に及ぶサービスにおいてもFacebookは対話型コマースの方向性で戦略を展開し始めています。
これまでは最初の1年間は無料で、2年目からは年額0.99ドルの利用料を徴収するアプリでしたが、2016年1月より完全無料化に踏みきり、今後Facebookメッセンジャーのように人々が企業や組織とコミュニケーションを円滑にしていくツールとして提供していくといい、そのビジネスモデルをユーザーからの利用料から企業への利用料へと2016年に大きく変換していくといいます。
口座を持っている銀行や搭乗予定の飛行機の航空会社への問い合わせをチャットで行えるようになっていくツールになるWhatsApp、Facebookメッセンジャーと同じ方向性ではありますが、その流れをみても対話型コマースの流れが主流になるのは明白でしょう。
日本における対話型コマースの流れについて
Facebookの流れをご紹介しましたが、LINEをはじめとした日本のサービスにおいても対話型コマースの興隆がみてとれます。
LINEビジネスコネクトの活用事例
メッセージアプリの中でも先行してマネタイズやそのプラットフォーム化に成功しているLINEでも、この対話型コマースの流れをいち早く取り入れており、LINEビジネスコネクトという名で企業とユーザーの双方向コミュニケーションを可能にする法人向けサービスを展開しています。
ユーザーは企業のLINEアカウントと友達になることで、企業からパーソナライズされたメッセージを受け取ったり、友達に連絡をする感覚で企業のサービスを利用することができます。
例えばドミノ・ピザはLINE経由でピザの注文を受けることができるようにしたところ、公開から4か月でLINE経由の注文金額が1億円を突破したといいます。ほかにもヤマト運輸はLINE上で配達物のお届け日時や不在時の配達通知をおこなったり、受け取り日時の変更などを行なうことができます。さらにブランド商品の買い取りを行っている「なんぼや」ではLINEで写真を送るだけで簡単に査定ができるサービス「LINE査定」を行なうなど、大手を中心に幅広いLINE活用の活用方法が見て取れます。
この月額利用料を無料するなど普及に向けた施策を行い、今では日本における導入企業は50社に及びます。食品のデリバリーから金融機関まで幅広く活用されているビジネスコネクト、企業アカウントと「友だち」と表現し1to1で簡単に繋がることができるその思想は対話型コマースの先端を言っている事例といえるでしょう。
日本における対話型コマースのスタートアップ
LINEだけならず、今対話型コマースの形式にてサービスを提供するスタートアップが注目を集めています。その代表的な3社をご紹介します。
ペコッター:グルメ
お店の希望を投稿すると、ぴったりのお店をチャット形式で教えてもらえるアプリです。実際に使ってみると、その返答の速さに驚くことでしょう。実際筆者もこのサービスでお店の情報を教えてもらい予約をするに至りました。その即レス実現のため、人力+人工知能で動いてるそうです。詳細はこちら
ietty:不動産
自分の住みたい部屋の条件を登録すれば、最適な部屋を紹介してくれるオンライン接客の不動産仲介サービスがこのiettyです。創業者はiettyのことをこれまで能動的に物件を選ぶ不動産サイトとは違った「バーチャルカウンターモデル」と呼びサービスのコアコンピタンスを「ネット接客」と言い以下のように言い表しています。
”物件を紹介されたお客さまは、ネット上で不動産屋に来店したのと同じ状況になり、その時点で接客が始まっている。まさに、バーチャル上のカウンターです”
受動的に物件をさがすことができる、まさに対話型コマースの在り方といえるでしょう。詳細はこちら
ジョブクル:人材
なんとこちら、実際の転職エージェントとスマホ上のチャットで転職相談ができる転職支援サービスです。希望の職種など簡単な項目を入力するだけで、ジョブクル側が選定した転職エージェントとマッチングすることができ、気になったエージェントとすぐにチャットでやりとりをすることができます。
一般的な転職支援サービスでは、スカウトメールの返信率の低さや登録時の入力項目の多さで離脱率が高さが目立つといいます。そのような課題をチャット(対話型)という形で解決するのがこのジョブクル、これまでの転職サービスがPC時代のものだとしたら、これはスマホ時代に最適化された転職相談の在り方と言えるでしょう。詳細はこちら
グルメ、不動産、人材などどれも大きな市場を持つ各分野で、これら対話型コマース系のサービスがどれほど受け入れられるものになるか目が離せません。
ネットショップで導入が進むWEB接客サービス
また、ネットショップや会員登録を伴うLPにおいては、今WEB接客ツールの導入が進んでいます。KARTE(カルテ)、Flipdesk(フリップデスク)、Zopim(ゾピム)などなど、簡単なスクリプトをサイトに埋め込むことで、簡単にチャット機能が導入できたり、来店状況に応じてダイレクトメッセージやクーポンなどを自動的に配信してくれるサービスが今盛り上がりをみせています。
実店舗で行なっているようなきめ細やかな接客をオンラインでも実現することができるこれらのツールの普及が進んでいる背景にも、お客様は能動的に商品を探すより、中の人やコンシェルジュに商品を選んで欲しいという受動的な需要が高まっているのを感じます。
シリコンバレーを賑わす会話型コマースのスタートアップ5社
Facebookの展開を踏まえた上で、日本国内における会話型コマースの興隆の兆しをみていきました。LINEがプラットフォームとして大きな存在感を見せている中で、各種ベンチャーが次のマーケティング手段として有望なその大きな市場を狙っています。それはFacebookが君臨する米国でも同じ構図です。改めて視点を米国に移し、この大きなトレンドの中心にいる注目のスタートアップ企業をご紹介いたします。
Operator(オペレーター):通販
会話型コマースの大本命といえるサービスが、欲しい商品のイメージをメッセージで送るだけでエキスパートが最適な商品を提案してくれるショッピングアプリ「Operator」です。このアプリは、アパレルアイテム・電化製品・家具・キッズ用品などの商品だけでなく、映画のチケットやホテルの予約サイトなどからも探してもらうことが可能で、その名の通りオペレーターが世界中のオンラインストアの商品を発掘してくれます。
また、これは「Uber(ウーバー)」の共同創業者ロビン・チャンによるサービスであり、配送に関しては数分で商品を届ける宅配サービス「UberRUSH」と提携しているため、商品の到着も驚くほどの早さとなっています。
実際の人間が対応を行っているアプリですが、蓄積されてきたデータを活用して、ゆくゆくは「M」のように人工知能の搭載も行うのか、それともUberのように働きたい人と買い物をしたい人をマッチングするアプリに特化していくのか。これからが楽しみな会話型コマースを代表するアプリです。詳細はこちら
Magic:食料品
Operatorの競合となるサービスがこちらMagic、名門VCのセコイア・キャピタルから1200万ドルを調達しているサービスです。こちらはOperatorと違いもっとシンプルで、アプリではなく83489宛てにSMSを直接送れば人間のオペレーターが人力で常にリクエストに答え、利用者の欲しいものをなんでも買ってくれるといいます。
無料で使うことができ、Instacartなどのデリバリーサービスと提携し商品を届けてくれるとのこと。人工知能などの盛り上がりを見せている今、Magic 、Operatorともに人力というのがユニークで面白いですね。詳細はこちら
Luka:飲食
サンフランシスコ版、ペコッターともいえるサービスでチャット形式でオススメの飲食店を紹介、予約までしてくれるサービスです。こちらは会話の相手は人工知能とのことですが、サンフランシスコにいく機会がある方は使ってみるのはいかがでしょうか?こちらに創業者のインタビュー動画が公開されております。興味深い内容ですので、ぜひご覧になってみてください。詳細はこちら
Pana:旅行
こちらは旅行に関するあらゆる悩みや手間を、実際の人間が代行して解決してくれるパーソナルな旅行代理店です。旅行に関すること、例えば行き先までの飛行機やホテルのリサーチと手配はもちろん、飛行機の遅延時には60秒以内で対応してくれる緊急性、さらに各地域のローカルコンシェルジュまで、旅行に関することならなんでも答えてくれるまさにポケットにはいる旅行代理店といえるでしょう。月額は29ドルと有料ですが、頻繁に出張など旅行にでかける方で予約など煩わしさを感じている方は試してみるのもいいでしょう。スマホには最適化されていませんが、日本だと無料でreluxコンシェルジュというのもあります。詳細はこちら
Vida:ヘルスケア
Panaが旅行に関する問題を解決してくれるのに対し、このVidaは体に起こっている問題を解決する手助けをしてくれるアシスタントがついてくれるサービスです。
ユーザーが肥満、糖尿病、脂質異常症といった慢性症状を健康コーチの指導の下で管理できるよう、1対1もしくはチームベースモデルのケアを毎日24時間体制で提供してくれるといいます。日本でいうダイエット家庭教師 「FiNC」と同様のモデルといえるでしょう。
友人に連絡をする感覚で日々の食事や運動、便の状況を伝えればその情報を元に栄養素含有量を調べ、その時の気分との相関関係をみて適切なアドバイスを行なうなど、医者には決してできない方法で健康面のサポートを行なうといいます。詳細はこちら
他にもCloe、scratchなどもありますが、今回はぜひ押さえておくべき5つの対話型サービスをご紹介いたしました。
テクノロジーを意識させずにその恩恵をもたらすスマホに最適化した「会話型」
FacebookやLINEの事例をご紹介しましたがAppleのSiri、AmazonのAmazonEcho、そしてGoogleもFacebookメッセンジャーのMのような、いわゆる人工知能ともいえる「チャットボット」を用いたメッセンジャーアプリを開発中といいます。(※余談ですがこの4社は本当にあらゆる分野に先行投資をおこなっているなとしみじみ感じます..笑)
Googleなどで何か調べ物をしたくとも、どういうキーワードで検索をすればいいかわからなかったり、検索結果からWEBサイトを一つづつ確認をする方も多いでしょう。その検索〜比較検討という行為はもう少ししたらデスクトップ世代の懐かしき行為とも言われる時代がくるかもしれません。
能動的に情報を探すよりも、友達に聞く感覚でやりとりができ満足がいく答えがくるのであれば会話型サービスを利用しない理由はありませんよね。Facebookが買収したWit.aiのように今や自動で受け答えをしてくれる人工知能を備えたボットの技術が増しており、今後それらボットを導入したサービスはどんどん現れるでしょう。会話の量が増えれば増えるほど、ボットはよりよいものになっていくのでその技術発展はすごい速さで見られると思います。

企業側からみても、そのお客様と1対1のクローズドな空間で繋がりコミュニケーションをとることができる会話型コマース、これまでの広告とは比べ物にならないくらいパーソナルで人間味溢れる内容で、伝えたい情報を届けることが可能です。各大手IT企業がここまで力を入れているのをみても、次なるマーケティングプラットフォームとして大いなる可能性も秘めていることがおわかり頂けるでしょう。
従来に比べると非常に発達をしている広告のターゲティング技術ですが、まだまだそのパーソナライズには改善の余地があります。そこにはセキュリティ面や利用者の感情面(ずっとリターゲティングされたり、出てほしくない広告の表示など)、そして媒体側のブランディングなどの制約もありもはや広告コミュニケーションの限界に達し始めているかもしれません。
一方、冒頭にもご紹介したようソーシャルメディアやWEBよりも多くの時間を費やされているメッセージアプリの「中」こそが、今後の広告の未来の一旦を担ってくるのではないでしょうか?もちろん完全に置き換わるものではありませんが、その名のとおり顧客との”会話方法”として、可能性溢れる手段だといえます。
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